「続 明暗」読了

 ふう。おもしろかった。はっきりいって私が今年読んだ本の中で十指に入るおもしろさだ。(どうして絶版なんだろうね?)
 昔の恋人清子の後を追って主人公津田は温泉宿に赴く。そこで本編は途切れて、さて水村美苗はどう繋いでくるかと手ぐすね引いて待ち構えていたところ、もう、完璧ノックアウトだ。文体模写について詳らかなところは論じられないけれど、この本を読んでいる限り、作者が夏目漱石だろうが水村美苗だろうか少しも気にならなかった。それに、話の接ぎ目が実にうまい。津田の手術後の経過や、漱石がやっていても実際にそうしたのではないかと思われるほど違和感がない。
 個人的にいちばんおもしろかったのは、津田の妹、お秀の登場シーンかな。本編でも、そのたぐい稀なパーソナリティで場を大いに乱して、今回はいつ出てくるのかなと期待してたら、最後の最後でバン! と登場。水村さん、これわかっててやったな。実際に声に出して笑ってしまった。いろいろな意味で巧みだなあ、と。
 水村美苗、もっとコンスタントに新作出してくれればいいのに。そうしたらこの「続 明暗」絶版の件も取り消しになるんじゃないかと、ずいぶん野暮なことを思ってしまった。