2010-01-01から1年間の記事一覧

重厚感

谷崎の『細雪』を読む前に、「細雪」ということばや作品の評判から(そして「谷崎潤一郎」という作家名から)、ひとはあるイメージを抱いてこの小説に臨むことになると思うのだけれど、実際に『細雪』を読み終えた経験があるひとで、そのときの、事前にぼん…

『M&D』読了

最後の方で喋る犬が(「一応」という但し書きつきで)再び登場と相成ったのは慶賀に堪えない…ということに個人的にはなるのけれども、あともうひとつ、「退屈でない」と「面白くない」という形容は、必ずしも同じ意味ではない——つまりは並列可能——ということ…

スイカと牛乳

原寸大の精巧なクラゲのレプリカを冷蔵庫に入れ、十分冷えた数匹を、身体に抱き寄せて眠りたい、という妄想にもこの激しい暑さのなか駆られたりもするのだが、そうすると、今度はあの有名な葛飾北斎のタコの絵を想起させられることになり、なかなか困ること…

『M&D』読み中

『メイスン&ディクスン』を読んでいる(また「スン」を「ソン」と打ち間違えていた)。面白いのか? よくわからない。退屈なのか? それは、ぜんぜん違う。奇妙なのか? 抜群に、その通り(喋る犬はこの後も登場してくるのだろうか?)。 ーーーーー それに…

日本の漢字

評判通り、高島俊男『漢字と日本人』もおもしろかったのだけれど、いまのわたしの渇を癒したのは、むしろ笹原宏之『日本の漢字』の方だった(→●)。この本で、どれだけ日本人が創意工夫をして——たとえ現在まで流通していなくとも——数多くの漢字を作り上げて…

一人三役

『ばるぼら』内の美倉志賀子は、夫が精神病院に入院した後、いったいどこに「勤め」はじめたのだろう。作品内では、その「勤め」先は明言されていない。病院で夫に尋ねられても「いいじゃないどこだって」とはぐらかしている。 実のところ、彼女は、手塚治虫…

托卵

屋名池誠著『横書き登場』(岩波新書)を読んでいる。新書、という性格を考えれば特に不思議はないのかもしれないけれど、内容とは関係なく、この本の中に、「僕」や「俺」や「私」といった一人称がまるで出てこないことに、現在戸惑っている最中だ。 日本語…

整理

家族のひとりに異変が生じ、こちらの身辺もあちこち整理しなければならなくなる。鏡で顔色を確認してみたら、くちびるの色が失せていた。乗り物酔いのときのようである。

乳首

この時期に、シャツ1枚で(したに下着をつけないで)町内を闊歩している男性たちの胸からは、とうぜんのように、汗でシャツが透けて、乳首の位置が容易に察せられるようになっている。 確か、岸本佐知子のいた会社では、「男性の乳首の場所当てクイズ」(ワ…

悪魔的

前にも書いたことがあるのだけれど、わたしが生まれてはじめて自分のお金を出して買った小説は、筒井康隆の『俗物図鑑』だ。当時新潮文庫から出ている筒井康隆の本の中で、一番ぶ厚く、子供心に「金を出した分のもとは取れるだろう」と踏んで、近所の小さな…

三だらけ

今更ながらなのだろうけれど、夏目漱石の小説にはやたらと「三」の入った登場人物・動物が出てくる。『三四郎』の小川三四郎の他に、 『吾輩は猫である』の三毛子と多々良三平 『それから』の平岡三千代 『行人』の三沢 『道草』の健三 三だらけだ。 まだ他…

息子局

はたして女性の声による振り込め詐欺は可能なのだろうか。 原理的には、おそらく「可能」(ということばをつかうのにも躊躇いが生じるところではあるのだが)なのだろうけれど、しかし、その具体的な内実となると、わたしの乏しい想像力では追いつけないもの…

余波

漫画の中の絵を表語文字の一種とみなすと(養老孟司みたいだけれど)長年、日本における「新しい漢字」の役割はこれらが担ってきたのだろうかという思いに囚われたりもする。 ーーーーー また、戦後の国語改革の最終目的が、あらゆる漢字の廃止にあったのな…

祝砲

チャイコフスキー本人は気に入ってなかったようだけれど(「幼稚」だとか「大衆向け」だとかいってたとか)でもぼくは好きですね、序曲「1812年」。(「でも」ってことないか。)最後の大砲がどーんどーんどーんどーんと連続で鳴るところなど、正に「か・い…

儂問題

例えば「障害」と記すか「障碍」と記すかという問題は浮上しても、ここで「どっちも何だからいっそのこと新しい漢字(っていうか言葉)を作ろうか」って意見が真剣に出て来る例はあまり耳にしない。 でもカタカナでの新語は、「アラフォー」だの「イクメン」…

野比くん

藤本弘は生前「のび太はぼく自身だ」といっていた(らしい)のだけれど、今読売で連載されている我孫子素雄の「まんが道60年」を読んでいると、意外に「のび太は我孫子素雄だ」という気がちらとしてみたり。これは、かなり失礼に抵触しかねない思い付きだか…

下唇

『オーランドー』って過去に2回読んだことあるけど、評判が芳しい割りに正直どっちでもいまいちぴんと来なくて。だもんだから自分とバージニア・ウルフってのは相性があまりよくないんだなと勝手に思ってた節があったんだけれど、今回新たに訳された『ダロ…

WT

ふとしたことで触れたチューリングとチャイコフスキーのそれぞれの死の周辺事情が似ているなあと思って気になっている今日この頃。 おおざっぱないい方をすると、 ホモセクシュアルな行為 それを罪と見なす風潮 それにまつわる自殺疑惑 この3要素がそれぞれ…

夏風邪中

けほん。…よわまってる。努力が報われるとは限らないということは頭では(一応)知っていたけれど、胸できちんと理解できていたかというといささか心許ないものがあったのもまた確かなことで。いい勉強になりました。かといって、この先努力なんて全て人生か…

左右相称2

「二」も「四」も「六」も「八」も「十」も、偶数だから左右相称なんだろうなあってことを漠然と思う子供の数はそうは少なくないような気もする。では、なぜ「一」と「三」も左右相称なのだろう? きれいにふたつで割り切れないのに。「一」も「三」も、「二…

まめえもん

まあちょっと惹かれるネーミングではあるな(→●)。 豆粒ほどの小男で他人と魂を入れ替わり、数々の情事を楽しむ。 数々の情事の「情事」ってのがはたしてどういうものなのかはぼくとしては皆目見当がつかないのだけれども、「楽しむ」とあるからには、まあ…

外延

まあ期待はしていたけれど、うまいよなあ。江國香織の『真昼なのに昏い部屋』(→●)。ああ判る判るその気持ち、って感じるひとが大勢いるだろうな、っていうことを思わせる手腕がほんとうにうまい。ということはすなわちぼくもまたその「ああ判る判るその気…

誤名

えーと今度できた三菱の美術館でやってるのってマネだっけモネだっけどっちだっけ? というくらいにこのふたりの区別がつかない。今確認してみたらマネだった(→●)。でもまたしばらくすれば「どっちだっけ?」という疑問に襲われそうな気もする。そういうこ…

過渡期

過渡期という言葉について考える。考えるというか、そもそも過渡期でない「期」は存在しないのではないかということがいいたいのだが。いいたいというか、単にそういう風に思っただけなのだが。 これはあくまで巨視的に捉えた際の意見であって、微視的に捉え…

疑事主因

母方の祖父は帝銀事件(→●)で容疑者候補に挙がったことがあるらしい。又聞きによると、当時は丸形のメガネが主流だったのだけれど、祖父は異なるタイプのものを掛けていたことがその主因となった由。身内としては、「へぇ」というより他にない。個人的には…

名当て

某人気作家の弟の名前は三島由紀夫の登場人物から取られている由。昨夜の夢で「その名前は何なんだろう」ということを集団で真剣に考えていた。ヒントとして、 四文字である カタカナである ニンニクと関係している というものが挙がっていたのだけれど(し…

朝の荒俣

偶然通りかがったテレビで荒俣宏を久々に見て、ちょっと驚いた。あくが抜けたなあ。と。でもこのあくというのもあくまでぼくが心の中だけで長年育成していた仮想のもので、実際の荒俣宏はこの前ぼくが見たときと同じような感じでずっと爽やかに生を満喫して…

ある猿

藤子・F・不二雄の『コマーさる』って作品があるじゃない? いやそっちの方じゃなくて本家本元の方。主人公の少年がある日公園で見つけた猿には不思議な力があって、その猿が手にしているものを見ると誰でもそれを——どんなにつまらないものであっても——無性…

託宣的

2002年逝去だからもう8年か。早いっすね。ナンシー関の話。今も彼女が生きていたらあの物件のことをどう評しているだろうかという想像が蠢くことは正直最近テレビとは縁遠い生活を送っているので稀なのだけれども、ちょっと思ったのは、西原理恵子の画力対決…

文房具図

鉛筆で字を書く際に紙に当たる音がわりに好きだ。ボールペンでもシャーペンでも絶対に出せない種類の音だと思う。かつかつかつかつと。ついでにいうなら、紙の辞書を捲る感覚もわりに好きだ。他では決してつかわない筋肉をつかってる気がする。せいぜいタウ…