一人三役

ばるぼら』内の美倉志賀子は、夫が精神病院に入院した後、いったいどこに「勤め」はじめたのだろう。作品内では、その「勤め」先は明言されていない。病院で夫に尋ねられても「いいじゃないどこだって」とはぐらかしている。
 実のところ、彼女は、手塚治虫の「スターシステム」にのっとった形で、次作の『シュマリ』内で働いていたのではないだろうか。つまり、彼女は、『シュマリ』内で、大月妙そして太財峯といった役柄名で「勤め」ていたのではないか。ということを、今回再び『シュマリ』を読み通してみて思ったりした。
 顔とスタイルから、この三者を同一人物と見なしても構わないだろう。そうなると、『ばるぼら』内で、決してその魅力がじゅうぶんに開花されていなかった(夫からただ疎んじらているだけだった)美倉志賀子が、『シュマリ』では、立派に主役の男たちをも凌ぐかたちで活躍していたことになる。しかも、一人二役という難役で。
 個人的に、わりにこの考えは気に入っているのだが(救いにもつながっている気がする)、もちろん正解はやぶの中だし、しかも少々マニアックである。わからないひとにはまるでちんぷんかんぷんだろう。申し訳ない。でも書かずにいられなかったので書いてみた。
ーーーーー
 ところで、『ブラックジャック』のピノコを筆頭に、手塚治虫の描く女性たちはファザコンが多いような気がする。美倉志賀子も太財峯も、このタイプだろう。(そして概して彼女たちは、男運が悪い。悪いというのがいい過ぎなら、愛する男から、ストレートに向き合ってもらえない傾向がある。)