砂と真鶴 

 川上弘美が「文學界」に掲載してきた作品って、どこか一本通ったものがあるね。「蛇を踏む」にせよ「溺レる」にせよ「龍宮」にせよ、そして新作の「真鶴」にせよ。つづめて言うとそれは、異界を通して男女の営みを相対化する、みたいなことに落ち着くのだろうけれど、個人的に、川上弘美の数ある営業品目の中で、この系列がいちばん好きなんだなぼくは。なんてったって、彼女の最初の作品「神様」にがつんと来た口なので。まあ、クウネル系のガーリッシュなあれ(「ざらざら」)もけしてきらいではないけれど。あと新潮系の異界に頼ってないあれ(「ニシノユキヒコ」「中野商店」)とか。つまり、ほとんどすべて好きってことか。
 ところで、新作「真鶴」。読み終えたよ。異界臭たっぷり。さいごは妙にしんみり。と、同時に、これって安部公房砂の女」の裏ヴァージョンみたいな小説だねえと思ったね。つまり、男に失踪された女側の小説かなと。失踪する男もいろいろたいへんなんだろうけど、失踪された女だってそれを上回るくらいいろいろたいへんなんだよ――ってな見方は穿ち過ぎ? でも、砂があんなに出てくれば、そりゃあついつい喰いついちまうよ。