「黒い眼のオペラ」

 ある意味、谷崎「陰翳礼賛」よりずっと「陰翳礼賛」な世界ですねえ。舞台マレーシアだけど。道で行き倒れた男を介抱していく内に、あれれれれ……とその男の魅力にすっぽりと嵌って抜けられなくなる男のエピソードというのは、やっぱり蛍光灯の明かりがそこかしこでさんさんと輝く場所では有り得ないシチュエーションではないかと。あるんですかねそういうの。知らないんですよぼくは寡聞にして。蚊帳の中での愛の営みなんて、まるで遺伝子に組み込まれていたんじゃないかというくらいに思い切り既視感がありました。遺伝子というより、無意識レベルでの共感て感じ? 廃墟にひそむ蝶の舞とか。つまりは、はなしの筋云々以前に、映画のどこを切り取っても1枚の絵として通用するうつくしさにほうっと感心しっぱなしだったというか。あと、森林火災に辟易して、ヒロインが付けてた発泡スチロール製のマスクは、ものすごくかっこよかったです。(あまり役には立ってなさそうだったけど。)ユニ・チャームの人が見たら新製品への意欲をそそられるかもしれない。