不況用

「上司は思いつきでものを言う」。橋本治の新作だ。うん、確かにそうだなあ、と実感するところあり。なので、けっこう期待して手に取ってみたのだが、正直、前半部分はあまり心に響かず。「上司は現場に関わっていない、なので現場の声を重視しない」なんて話、今さら橋本に指摘されなくても十分すぎるほど知っている。そもそも、「現場に関わっていない」という点では、橋本も同じではないか。あとがきでフォローを入れているが(私は出版業界では“現場”以前の箇所に関わっている人間だ、等)、少なくとも、この時点でなんらかの示唆を得られることはなかった。珍しく橋本に反感を抱いたくらい。
 そんな感じで、途中でやめようかどうしようかと迷いながらも第3章まで読み進む。第3章の終わり付近で、ちょっと“良さげ”になってくる。「もう少し人間的な声を出すことを考えてもいいんじゃないだろうか」の項。上司の反発なんてあらかじめ予想されているのだから、そんな面倒くさい事態、回避するに超したことがない・・・という考えで世を渡ってきたのだが、ここで橋本は「なんでそうした馬鹿げた反発に“あきれた”って態度表明をしないの?」と問いかける。「だってそうすることでより反発を招くじゃん。面倒くさいよ」と心の中で答える。に対し、橋本の回答。「それって犬のしつけを放棄したのと同じだよ」。犬。犬ねえ。うーむ。
 そして第4章。儒教現代日本にどう息づいてるかについて。めちゃくちゃおもしろかった。「日本が一億総中流化に進む道筋」を分析した箇所など、実にうまい。当たっているかどうかはわからない、けれども、エンターテイメントとして一流だ。そうしたおもしろさの方がけっこう真理よりも重要だったりするし、またそうしたおもしろさ自体が既にして「真理」であることもままあるわけで。(上司を「オヤジ」「アメリカ」に言い換えても通用するらしいが、それでもこの本、題名がかなり重すぎる気がする。)