セラピー犬

 92歳になる祖父の口数が少なくなった。別に、頭が惚けているわけではない。おそらく、毎晩の晩酌を禁じられているからだろうと踏んでいた。が、ここで意外な意見が。「芽衣さんが死んだからに他ならない」。私の母親の意見。つまりは、祖父の娘の意見。うーん。そうか。ちょっと考えもつかなかった。祖父と芽衣さんは、さほど親密な間柄ではなかったし、加えて、彼女の死に際を見取ったわけでもないから。というのは、あまりに浅薄な見方か。ここでにわかに噴出する、「新しい犬を飼おうよ」の声。正直、心は傾く。それで、祖父が元気になるのなら、お安い御用だ。もちろん、純粋に「飼いたい」というのもある。けれども、その犬の最期を見取るのは、私ひとりになる可能性大なんだよな。