58年生のリアル

 ひとから借りて、「最強伝説 黒沢」のVol.1を読む。どうしたってここに、リアルな男の負け犬像を見てしまう。ああ、負け犬ってつかっちゃいけなかったんだっけ。でもなあ。44歳。独身。オヤジ、ではなく、オヤジにもなれない「歳男(としお)」と自称する主人公。幻想に縛れているなんて言い種はあまりにベタなのでしょうか。工事現場の仲間たちに、アジフライをプレゼントしようとして失敗、どころかおかしな誤解まで与えてしまってさんざんな彼。もう、ほんとに、きっついなあ。「四十にして惑わず」てなことばが宙に吹っ飛ぶ。のび太に対する出来杉くんみたいな男も出てきて、彼のみじめさはいっそう際立つ構造になっているのだが、その“出来杉くん”にだって内面はあるだろうに。ないのかな。あれは単なる主人公のみじめさを際立たせるための舞台装置なのかな。ここに、つくづくおとなしくて従順な日本人の姿を見るよ。暴動、なんて、どっかの国みたいに起きないのかな。どうなのかな。黒沢の家庭環境(親の最終学歴等)に、なんかすごい興味が湧く。
 前に安野モヨコフィールヤングで連載してた「プレイボーイ団地」は、女独身ひきこもりパラサイト(少しパラノイア?)を主人公にしていたのだけど、途中からはなしがぐだぐだになって、結局打ち切りになってしまった。まあ確かに上記の条件を備えた主人公で話を引っ張っていくのは難しかろう。それに、上記の条件を備えているからといって、字面から発せられるマイナスのオーラをそのまま描くのはちょっと怠慢かも、と思ったり。ひとはいろいろだろうし。ははあ。その点、この「黒沢」は成功してる感じがする。Vol.1を読んだ限りでは。もちろん最後に主人公に救いの道を示してくれるんだろうね、と期待しちゃって、いいのかな。