脱会信者みたい

 小学生の頃から、漫画家になりたくて、最大の恐怖が「漫画家になれずに死ぬこと」だったから、それ以外の望みすべてを放棄するほど、かなり真剣に努力をしていた。が、後年、漫画が自分に与えた影響を全面的に良しとすることができなくなって、「他に結婚したい相手はいないけれど、これ以上一緒にいると互いに不幸になるね」というのと同じ文脈で、大学時代に漫画から手を引くことにした。そう、ほんとに、結婚・離婚と同じ文脈で漫画家という職業を捉えていた。「漫画家になれずに死ぬこと」については、「まあ人生そんなもんだろう」という、わかったような、わからないような、ごくごくあいまいな感じで決着をつけた。(はずだ。)思い出されるのは、ペンや紙やインクを箱に詰め、「どこかに埋葬しよう」とひとり自転車置き場に向かうシーン。午後1時くらいだったかな。ごめん。ほんと。暗くて。更に申し訳ないことには、このこと今まで数人にしか言ったことないんだよなあ。小学生時代から真剣に漫画家になりたかったこと、を含め。別に知りたくないだろうし。知ってもつまらないもんね。ただ、この経験が今の自分を大きく規定しているなと思い、軽く摘んでみた次第。
 先日の飲みで、Fさんが「昔作家になりたかったんでしょ?」と聞かれ、「うん」と答えたことに衝撃を受ける。自分だったら、絶対言えんな。その軽さが非常に羨ましかった。対して私は「化けの皮を剥がす」なんて言われて「そんな、自分なんて全然うすっぺらな人間ですよ」と答えたのだけれど、けっこう漫画家志望の気持ちってのは、ある種の「皮」となってるなあと思ったのだった。