■「たけくらべ」の美登利は気が強いことで有名だけれど、そんな彼女が、ある日を境に、きゅんとおとなしくなってしまう。友達に「遊びに行こうよ」と誘われても、すげない返事を返すばかり。どうしたことなんだろう、これは。彼女が、恋をしたから? いや、恋をしたからといって、ことほどさようにおとなしくなるような美登利ではない。定説はふたつ。初潮を迎えた。もしくは、はじめての「客」と取らされた。「樋口一葉「いやだ!」と云ふ」の著者田中優子は、「そんなこと、どうだっていいじゃない。単に、ひとりの人間として、仕事を始める際に生じるブルーな気分がここで表されているだけよ」と語る。真相は、おそらく永遠に薮の中。ただ、今回一読した限りでは、はじめての「客」を取らされたというのがいちばん近いのかも、と思う。あくまで、なんとなく。漂う空気から察して。とかいって、まあやはりどうでもいいか、こんなこと。あまりに下世話に過ぎるはなしか。美登利が大人になりました、というただその事実を噛み締めるだけで充分か。