利き手矯正

 真保裕一という人間にはさほどの興味を抱いていない。「ホワイトアウト」も未見だし。ただし、昨日の日経「プロムナード」に寄せられた文章には多大な興味を抱かせてもらった。

 私はそもそも左利きである。日本の文字というのは、右利きの人が書きやすいようにできている。漢字もひらがなも、左から右へ線を引くことで成立する文字が多く、左利きの者にとっては実に書きにくくてならない。そこで、小学生の途中で文字だけは右で書くように強制された。これがいけなかったのだろう。

 すっげーなー。いつの時代の話だ、これ。えーと、真保氏1961年生まれだから……70年代初頭? ヒッピー文化真っ盛り? って知らないけど。にしても、今だったら人権無視とかそういう方面に発展しかねない話だ。といって、多くの人が「何を大げさな」とか思うんだろうな。いや別に嘆いちゃいないんだけど。右利きの人を左利きに矯正する、なんて例を持ち出すのはそれこそいやったらしいし。「意味ないじゃん、そんな右利きを左利きに矯正しても」「でも真保くんまったく同じことやらされてたわけで」。今でも文字は“壊滅的”に下手なまま。<恥ずかしさを通り越した屈辱感と怒りをはらんだ絶望感にさいなまれることおびただしい。>うわー。おこってんなー。でも、まあそのおかげ(?)で一つ良い出会いを経験した、みたいなけっして読後感は悪くないエッセイだったのですが。
 これ読んで思い出したのは、一条ゆかりの描く文字。彼女も確か左利きだったように記憶しているけど、「字が汚い」なんて印象はこちらには皆無だ。他にいないか、左利きの漫画家。つまりは汚くない書き文字のサンプル。別に日本語だけが左から右に線を引くようにできているわけじゃないし、それこそ真保裕一の取らされた教育は、ムダ、とまではいわないけど……うーん、ちょっと言葉が濁るなあ。