ループする記憶

 最近は、電車の中で本を読まない。それどころか、音楽も聴かない。では、何をしているのかというと、何もしていない。何もせずに、ただ電車の中で揺られながら目的地まで運ばれるだけ。揺られながら、昔読んだ漫画を頭の中でリピートするだけ。よく利用するのが、藤子・F・不二雄高橋留美子の一連の漫画。扉絵から、かなり念入りに再構築する。それをやったからといって、何がどうなるわけでもない。漫画が描けるようになるわけでもないし、言葉が上手くなるわけでもない。ただ、他にすることがないから、やっているだけ。これぞ純粋な漫画ジャンキー。記憶の囚われ人だ。
 かつて、こうした記憶が何かの役に立つかもしれないと思っていたことがある。将来の、具体的な糧になるかもしれないと思っていたことがある。だからこそ、こうした記憶を鍛えるために、繰り返し漫画を読んでいたくらいなのだ。その頃の特訓が実を結び、現在、こうして電車の中での時間を潰すことに役に立っているのだけれど、果たして、「具体的な糧」には結局なりそうにない感じだ。