鎮魂

 彼女は、わたしの通っているスポーツクラブに通っていました。
 噂です。ほんとうかどうかは、さだかではありません。さだかではないけれど、そのことは、微妙な笑いを誘うものとして、わたしの周りで処理されていました。名前のインパクトも、もちろん――いやかなり――手伝っていたのでしょう。
 だから、今回の報を聞き、突然、という意味における驚きと共に、かなしみ、という言葉では到底言い尽くせない、複雑な感情を抱きました。つまり、それなりに、彼女の存在は、わたしの中にコミットされていたのです。
「病気だったんだよね」
「子供が中学で同級生だったとか」
「田中とか山田とかいう名前だったらまだね」
 周囲の口は、止まりません。わたしの口も、同様です。
 彼女が飛び降りたマンションは、ここから自転車で数分のところにあります。
 報道で触れてもいまいちピンと来なかった「鎮魂」という言葉に、今は頼りたい気持ちでもあります。