テレポート

 小学校4年の頃、同じ班にいたやたらと絵のうまい女の子と話をしている際、何かの拍子で「テレポートってさあ」と口にしたら、「は?」と怪訝な顔をされたんだ。
「何、それ?」
「テレポーテーションのことだよ。えーと、空間をAからBまで瞬時に移動するという」(なる内容を、もっとつたない言葉で説明していた。)
 すると彼女は、あは、と口を笑いの形にし、
「ねーねーおもしろいよこの人。テレポーテーションをテレポートなんて勝手に略してんの」
 と、周りの人間を巻き込み、さんざぼくを笑い者に仕立て上げたんだ。
 こっぱずかしかったねえ。想像するに、ふだん方言を隠している人が何かの拍子でぽろっと出て来るような、そんな感触に近かったんじゃないかな?
 あ、さっきね、「われわれは共に生きまた共に死ぬ者である」なる文書を同時に読んだ何の縁もない若者8人が空間移動をするという夢を見たものだから、つい上のようなことを思い出した次第なんだ。
 大辞林のページを繰ってみたら――あるねー、ちゃんと。「テレポート」なる項目。なんだー。単にむこうが知らなかっただけだったんだ。
 あー、じゃあ、わるいことしたなー。藤子不二雄に。当時は、「へんな言葉マンガに書くなよー」と恥ずかしさのあまり、ちょっと怒ってしまったくらいだからなー。
 あの場の自分に、おどおどせず、もっと堂々としてろよと叱咤したい気分だ。
 いやでも、会話の中に「テレポート」なんて語を入れること自体が、既に彼女的にはアウトだったのかな?
(……にしても、このひとは、ものごとを順序立てて話すのが下手だねえ。つまりは、時間的処理能力が未熟みたいだ。時系列に沿うだけでなく、それを崩すことさえ、もっとこう、上手くなりたいのだがなあ。今後の課題かな?)