写楽の目から出る液体

 ここのところ、「三つ目がとおる」の主人公、写楽保介の第三の目から流れ出る液体について考えている。作中で、「ヨダレ」もしくは「水」と表されていたあの液体は、どうして、「涙」と表されていなかったのだろう? 額にはあれど、同じく、目から出る液体なのに。わざわざ、「これは涙ではない」と、写楽保介の口から否定されているくらいなのだ。写楽保介が「興奮する」と流れ出る液体だから、ここには、性的なメタファーが秘められているのではないか、と一時期想像したこともある。つまり、あの唾液は、尿道球腺液の謂いではないか、と。ただ、この「興奮」が、わりに曲者だったりする。決して、個人のセックスに関するものではない。そうではなく、はっきりと、民族(三つ目族)の滅亡に関わるものばかりなのだ。今はなき民族の滅亡に関する書を読み、破壊衝動を後押しする格好の材を得る写楽保介。彼の額に位置する目は、そんなときにてらてらと液体を流す。「ヨダレ」や「水」と表したのは、「涙」を流し、悲しんでいると思われたくない写楽保介のつよがりを示すエピソードのように通常は――というか、幼少の読者には、思われがちだ。だが、ここには、そんな安易な解釈を受け付けない、けっこう意味深なものが含まれているような気がする。