頭の中でワン・センテンス

 ちょっと長いけど、丸谷才一『思考のレッスン』に載っていた「書き方のコツ」を抜粋。

「ものを書くときには、頭の中でセンテンスの最初から最後のマルのところまでつくれ。つくり終ってから、それを一気に書け。それから次のセンテンスにかかれ。それを続けて行け。そうすれば早いし、いい文章ができる」
 センテンス途中で休んで「えーと……」なんて考えて、また書き出す人がいるでしょう。あれはダメ。とにかく、頭の中でワン・センテンスを完成させた上で、文字にせよ、ということなんです。
 具体的に言うと、
「親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしているマル」
 という文章を頭の中で作る。頭の中で出来上がったところで、初めてそれを文字にする。「親譲りの無鉄砲で」というところまで書いて、そこで休んで、「うーん、どうしようかなあ……、『子供のときから』にしようか、『小さいときから』にしようか、『五つ、六つのときから』にしようか……」などと考えてはいけない。「『損ばかりして』か『損をしてばかり』か……」と迷ってはいけない。
 そういったことを考えるのが文章の工夫だと思っている人がいるけれども、あれは間違いです。単なる時間の浪費に過ぎない(笑)。推敲したければ、書いてしまった上で推敲すればいいんですね。とにかくワン・センテンスを頭の中で全部つくってから、それを文字にせよ。

 ほんとかよ? 何かいま自分の好きな文章を書いている人びとひとりひとりに「こんなことをやっているんですか?」と問い質していきたいような気分です。(←と、上のやり方に従って書いてみました。)いや、でも、実際、アンケートを取ってみたいなあ。「文章を書く前に頭の中で最後のマルまで作っているひと手を上げて」とかね。50パーセントを上回っているようなら、ちょっと、かなりカルチャーショックだ。マルはともかく、テンはどうするんだろう……とか、うーん、だんだんしばられはじめてきました……。