『創造の狂気 ウォルト・ディズニー』読了

 そういえば、学生時代、半年間TDLでバイトをしていたことがあるくらいに、決してアンチディズニー派ではないにもかかわらず、これまで、さほどその創始者に興味は抱いたことがありませんでした。これもいわゆる、ディズニー社による情報統制による賜物? まあ、そのおかげで、逆に興味を抱く必要がなかったという面ももちろん多分にあるのだろうとは思いますが。夢に向かい弛まず努力をし続けた偉大なるアメリカのおじさん、というイメージに、あなた興味を持てますか? 関係ねーや、と、酸も甘いも噛み分けたあなたなら、やっぱり、もうちょっと突っ込んだものに触れたいと思いますよね。……と、人の所為にしちゃいけないか。つまりは、自分の嗜好ははっきりとそういうものなので、何やら、ディズニー社の「検閲」をまるっきり受けずに出版されたという本書には、へへえ、と激しく惹かれたという次第であります。
 アンチディズニー派ではないと書いておきながら、たぶんこれ、アンチディズニー派にもかなり楽しめる本だと思いますよ。(ああ書き忘れてた。本書はウォルト・ディズニーの伝記です。2007年7月ダイヤモンド社刊。)って、勝手に、アンチディズニー派って、「ピュア」を売り物しているところを嫌っているんだろうなというイメージに沿って解釈しているのですが。前に、TDLのことを、ネズミーランドとか言ってる人もいたしなあ……。なにもそこまで露骨に嫌いということを表明しなくてもとはちらりと思いましたが。逆に、どうなんですかね、ディープなマニアの方たちはショックを受けたりするのでしょうか? 別に、意外というわけではなかったものの、ヘビースモーカーだってってのは、わりかし、へええ、とうなずきたくはなる側面ではありましたね。あと、ポロの試合中、あやまって、人をひとり、事故死に巻き込んでしまったというのも、まあ、長い人生、そういうことがあっても不思議はないか……という納得の範疇内に収まっていました。
 と、そんな中で、たぶんこの本を読んだ人のほとんどが、「意外」のレッテルを貼ってたんじゃないかなーと思えるのが、長い間の、自転車操業に関する記載です。そう。金がないのは首がないのと同じ。金がなければ、何も始めることはできないんだなあ、と、深く深く、これまでにも増して、胸に刻んでおかざるを得ないような貧窮ぶりをまざまざと見せつけられます。最初から、うはうはの状態ではなかったのだろうな、ということは、さすがに頭で理解していたものの、いやはや、と首を実際に降るくらいに、金策、そして裏切りの苦労で溢れた人生……。ああもちろん、金の前に、やる気ってのがないと何も始まらないというのもまたこの本で強く放射されてる事実(なんだろうな)なんですがね。数えたわけじゃないけど、やたらと「意気軒昂」という四文字熟語に出会えるのも、この本の特徴のひとつに数え上げてもいいのではないでしょうか?
 って、何やかんや言って、きっちり、カンフル剤としての役目も果たしてくれる本でしたよ。微妙な具合に、正体不明の元気をもらえます。本というより、ディズニー氏の生涯に触れて、ということなのだけれど。ちょっと、完璧に、前よりも好感度は、少なくとも自分の中ではアップしましたね。ウォルトに対し。(呼び捨て。)いや、ほんとに、好きとか嫌いとかを通り越して、すげーな、というその勢いは、ぞんぶんに味わえると思います。ミッキー苦手な人でも。