『遊興一匹 迷い猫あずかってます』読了

 ほんとこわいんすよ、猫は。ぼくだって、深夜、犬の散歩中に襲われかけたことがあるし。集団で、だよ。(うろたえますね、ああいうときは。まさか蹴飛ばすわけにもいかないし。)「グレムリン」を、まざまざと思い出した。ふだんは可愛らしいのに、なんらかのきっかけで豹変するという……。
 そんな具合に、どちらかといえば猫派、とはいえない人間ではありながらも、そのすがたかたちの美しさは、認めざるを得ないっすね。というか、前にも書いた、金井氏の文章で、美しい、と思うその「内実」にこそ焦点が当てられていたからかな? わらえたなあ。(嘲笑じゃないすよ。もちろん。)それとはやや趣が異なる、「猫の自主性」なるものを大切にする弟を揶揄する女性の文言にも、わらった。つまりは、こわがる、のとはまったく逆の感情で、読み進めることができました。いや、さすがに、猫が犬を襲う件に関するエピソードには、こころ穏やかでいられないものがあったのは事実なのだけれど。
 ちょっと、現在引っ越しの準備中できちんと確かめることがままならないのですが、ここに出て来ている愛猫トラーは、既に、鬼籍に入れられてるんですよね。「一冊の本」に書いてあった。敬語も、使わざるを得ない。この本で読めるのは、若い頃のトラーのすがたと、それを、決してべったりとはしていない視線で見つめる金井氏の愛情で、死をも、いちおう、視線の中には入っているのだけれど、それでもやっぱり、我が事ではないながらも、気持ちに穴が開かない方が不思議、といった風情ではありますね。心配、というのもまたおこがましいものがあるけれど。(なるべくなら、「一冊の本」で、石井桃子氏について触れて欲しいのですが、それもまた、むつかしいのかなあ……。)金井美恵子著。新潮文庫。1993年。