アルベルチーヌとアンドレ

 頭にブーケを載せた若い娘が、薄くピンク色に染まった尻をこちら側にむき出しにし、それを、ベッドに腰掛けた金髪で全裸の同じく若い娘がほほえましげに眺めている——というのが集英社文庫失われた時を求めて』10巻の表紙イラスト(→)なのだけれど、「かわいい」という言葉をこんなところでつかうのは一種の怠惰(思考停止)なんだろうなあとは思いつつも、でも、じっさいこれ「かわいい」よなあ。今までの『失われ』イラストの中で、いちばん「かわいい」。まだこのイラストが表しているエピソードの箇所にまでは達してはいないのですが、それとは別にして、イラスト自体として、好みであります。
 てな感じで、ようやく『失われた時を求めて』、10巻目に突入。長かった。ここまで来たら、うん、ぜったいに最後の13巻まで読破してやろう、とはもくろんでいるのですが、まあ、人生何が起きるがわからないからなあ。せいぜい、そうできればいいなあと願を懸けるだけにしておこう。
 なんとなく、書き写したくもなってしまう、第7巻(「ソドムとゴモラ))の中の1エピソード。

 彼は、ぴったり身体を寄せあってゆっくりワルツを踊っているアルベルチーヌとアンドレを私に指し示しながら、付け加えた、「あいにく眼鏡を忘れてきたのでよく見えないのですが、あの子たちは明らかに快楽の極に達していますな。女たちはなによりも乳房で快楽を感じるということが、充分に知られていないのです。ほら、あの二人の乳房は、完全にくっついているでしょう」。じじつ、アンドレとアルベルチーヌの乳房は、それまでずっと接触をつづけていたのだ。

「アルベルチーヌ」という女性のモデルは、プルーストの想い人だった「アゴスチネリ」という男性であったということも、ここに記しておきましょう。