アパシー

 あら。ルース。君はいつの間に日本にやって来て馬車に乗っていたのか。と、毎日毎日、寸とも変化する様子を見せない宮内庁の馬車情報ページを(それこそ雨にも風にも夏の暑さにも負けず)チェックし続けていた身としては、このとつぜんの来訪に、心底びっくりしましたよ。

  • 20日、信任状奉呈式のため皇居に向かうルース新駐日米大使を乗せた儀装馬車(→

 ああああ。二頭曳き座馭式馬車……。「適宜お知らせいたします」と件のページにあった記述をあたまから信じ込み、もうそろそろ知らせてくれるかな? わくわく。わくわく。と期待に胸を膨らませてイソップ童話のかえるの腹の皮並にその張力はかなりな限界値にまで達しかけていたというのに。少し、アパシーさえ被る。
 さて、どうして今回は情報収集にもののみごとなまでに失敗したのだろう? 間違ったページを見ていたのだろうか? という疑問が湧いてくるのは自然の流れ。なので、何もそこまですることはないか(クレーマーっぽくもあるし)——という至極とうぜんな躊躇を乗り越えて、宮内庁に、馬車の件を、電話で問うてみました。
 くだらないことで電話を掛けてくるな。この忙しいときに。民草の分際で。と頭ごなしに怒られるかな、という陳腐な妄想もちらと蠢いていたのですが、さいわいにもそんなことは起こらず。逆に、「まあ、それはほんとうに申し訳ありませんでした」と係の女性に恐縮されるという始末。
宮内「今回はあまりにも唐突に来訪が決まったので、情報を更新する暇がなかったんですよ」
ぼく「ああそうなんですか(再度がっかり)。じゃあ、現時点でも次の馬車の予定は……」
宮内「申し訳ありません。まだ判らないですねえ」
ぼく「そうですか……」
 まあ、間違ったページをチェックしていたわけではなかったんだなということさえ判明すれば納得、という点はあります。(もし同じことをしていたひとがいたなら、その報われなかった労を互いに称え合いたいとも思う。)あと、こちらとしては、この電話をきっかけに、「おや。きちんと馬車情報のページをチェックしているひとも(稀少ながらも)存在していたのか」という宮内庁担当者側の自覚をちょっとでも促すことができさえそればそれでよし、という感じです。
 それにまあどっちにしろ、20日には行けなかったというのも(実のところ)あるし。