文藝別冊 武田百合子

実は、1月に「富士日記」(上)に手を出し挫折した覚えがある。いや、あれ、通して読むのは大変だよ。しかし、どうやら、そんな構えて読む本じゃないらしい。お気に入りのCDのように、気のむいた時に適当なページを開いて読む。どこから読んでも、楽しめる、そういう本みたいです。も一度手に取ってみようかな。村松友みと川上弘美の対談が出色(これが目当てで買った)。そして、川上弘美が誉める「ことばの食卓」の文章は、私にも楽しめました。というか、かなり好きなタイプの文章だ。

一切れずつつまんで口の中へ押し込むのに、鎌首をたてたような少し震える指を四本も使うのです。そして唇をしっかり閉じたまま、口中で枇杷をもごもごまわし、長いことかかって歯ぐきで噛みつくしてから嚥み下しています。歯ぐきで噛むということは顔の筋肉を歯のある人より余計上下させなくてはならないので大へんなことです。唇のはしに汁がにじみます。目尻には涙のような汗までたまっています。

夫、武田泰淳についての文章。かっこいいね。