山が来たか

 町田康の「告白」(読売)も期待を裏切らぬ面白さだけど、桐野夏生の「魂萌え!」(毎日)、ちょっと、これ、たまらんものがあります。息子にコケにされ、とうとう敏子さん怒ってしまった。

家があるからいい、と言うが、ローンを払い終えたのは、退職金の半分を費いたからではないか。全部で六千万以上払った家がたったの三千万にしかならないことも頭に来るが、ローンの遣り繰りをしたのは、自分なのだ。友人たちがハワイに行った時も諦めたし、毛皮も宝石も持っていない。習い事だって、夫に遠慮してしなかった。地味で質素な自分だからこそ、夫も子供も恙無く暮らしこられたのではないか。それなのに、それなのに。敏子は言葉が出なくなった。体が震えてくる。

 ぼくは、今まで、桐野夏生の本を一冊通して読んだことはない。だって、この濃さ。新聞小説でちょうどいいです。さあ明日はどうなる?