マリオ・バルガス=リョサ「フリアとシナリオライター」

 ラテンアメリカ文学。というとただそれだけでありがたがる傾向が自分の中にあって、そのぶん水増しというか底上げしてるかもしれないけど、でも実におもしろかったです。主人公は18歳のマリオ。おお、著者と同名だ。というわけで、半自伝的小説、らしい。32歳のバツイチ、フリアおばさんとの恋愛を主軸に物語は展開する。いやあ、まさかこのふたりが本当に愛だの恋だの語るとは思ってもみなかった。近々公開の「なぜ彼女は愛しすぎたのか」という30女と13歳少年との恋愛映画を想起したり。・・・たいして変わらないといったら変わらない、こともないか。どうだろ。
 マリオの働いてるラジオ局に、ある日ペテロ・カマーチョなる奇人がやってくる。物語の奇数章は、彼の描くラジオドラマが毎回「放送」されるという仕組み。このドラマがなあ、かなりこちらのハート鷲つかみで、いまさらながら下世話のおもしろさなるものを再認識した次第。いや、語り口もドキュメンタリーチックでよかったんだけど、やはり内容が。美男美女の兄妹が愛し合い、だの、ネズミに妹を食べられ、だの、敬虔なモルモン教徒がレイプ疑惑をかけられ、だの。ちょっと「ヒッチコック劇場」っぽい。知らないか。で、最後にどんでん返しが、というのはなくて、ほとんどが「さて、彼らの運命や如何に」。うーん、これじゃあ人気が出るのもうなずけるよなあ。あ、マリオってのは将来作家志望で、ほとんど友人のいないペテロ・カマーチョも彼には心を開いているのです。終わりのほうで、ペテロ・カマーチョは、過労のため精神を病み、登場人物があっちに出たりこっちに出たりと錯綜するのだが(バルザック並み?)、それも含めて楽しかった。