「その名にちなんで」1

■前作「停電の夜に」は、かなり評判になっていたけれどあまり食指は動かず。一番はじめにあった表題作を読んで、「ふーん、うまいなあ」と感心した。それだけ。どうせ、作者の顔がまごうたかなき美人だからみんな騒いでんだろと少し穿った見方をしてみたり。だが、今日、彼女ムムつまりジュンパ・ラヒリの新作「その名にちなんで」(新潮社)を読み始めて、印象はがらりと変わった。実にうまい。この「うまい」は上の「うまい」の何十倍もの濃さを伴った「うまい」だ。共感力が優れているのか。インド人一家の話なのだが(ゴーゴリと名付けられた青年が主人公、彼はその名を嫌って新しい名に改名する)、お父さんにも、お母さんにも、息子にも、いちいち「わかるわかるその気持ち」と頷きたくなる。