金井美恵子『目白雑録』

目白雑録 (ひびのあれこれ)
 前に出た『「競争相手は馬鹿ばかり」の世界へようこそ』(凄い題名だ)では、あまりの接続助詞「が」「けれど」の多さにへきえきして、正直じっくりとは読めなかったのです。まあつまり、文章が極端に長いってこと。文章が長い・イコール・駄文、という刷り込みがなされているのかもしれません。けれども(これは接続詞)、今回のこの本はスラスラ読めました。どころか、なかば中毒となり、「ああ、もっと読みたい」と悶えるほどになる。何故か。ここに書かれていること、リアルタイムで知ってるのが多かったからなあ。「噂の眞相」に書かれた「松浦寿輝をめぐる金井美恵子川上弘美の三角関係」記事とか。その元となった、「週刊朝日」の『センセイの鞄』書評とか。(執筆者は現在も不明、かなりの酷評ぶりに、川上と犬猿の仲の金井美恵子が書いたのでは、という噂が流れる。)ははは。金井美恵子、いいなあ。自分のすべきことをきちんと心得てる。プロレスラーみたいだ。執拗に――というより、まあ巧みな文章の芸で、この件をバッサリと斬る。

 問題の匿名のコラムを、<そのあまりの酷評ぶり>と、嬉しそうに感心してみせる無邪気なひ弱さは、私も日常生活のなかでは時々発揮するのが嫌いでもない‘下司の勘ぐり’(原文、傍点付き)をすれば、「噂の真相」の記事の書き手と同一人物じゃない? 頭の弱そうな正義派文章の質が似てるよ、よくまあ、斎藤美奈子説や金井説が出て来たもんだ、自分で言いふらしたんじゃない? ということにもなるのである。

 そして、<また、恨みを買うことになりそうだが、いろいろ面白かったことは面白かったのだ>と続けている。いやあ、恨みは、かなり持たれるタイプだろうな。でも、僕は今回の本で惚れました。久々だ。文の書き手に惚れるなんて。というわけで、これから金井美恵子の小説にも手を出してみようかなと思っている次第。でも、それでがっかりするのはちょっと怖いな。