高原英理「ゴシックハート」

ゴシックハート
 なるほど。うまいネーミングっすね。ゴシックハートか。ゴシックを愛する心。と、それ以前に、「人外・異形・怪奇・恐怖・耽美・残酷・身体・廃墟・終末」といったテーマ(bk1の著者メッセージより)を「ゴシック」の一語でまとめたセンスこそ、賞賛に値するかな。いや、確かに、これらに惹かれる心というのは誰でも持ってるもんなあ。程度の差こそあれ。そこに、一定の規律が存在するか否かで、ゴシックの名が冠せられるかの違いだもんなあ。規律というか美意識というか。
 と、まあ、そんな感じで、ぼくも全編楽しく読み進めたクチです。活字におけるゴシックにはとんと縁がないようでしたが。三島由紀夫のよい読者では到底ないし。澁澤龍彦も、腰を据えて読んだことないし。乱歩足穂はもとより、中井英夫に至っては、手に取ったこともないし。あらら。ゴシック落伍者。だけれども、書かれていることにはしばしば共感しました。人外(にんがい、とよむ)という概念、この本ではじめて知ったよ。共感、というより、共振していた節さえある。
 一番印象に残っているのは、岡崎京子ヘルター・スケルター」のところかな。「ヘルター・スケルター」って、ときどき、作品そのものより、周辺の文章の方がおもしろかったりします。もちろん、作品の力あってのことなんだろうけれど。「リバーズ・エッジ」や「東京ガールズブラボー」にまで言及されてのゴシック(つーか人外)論には、やはり心揺さぶられるものを感じることしきり。
 高原さん、この路線でまた本を出してくれないかなあ。なにより、ナルシズムを感じさせない冷静さがピカイチです。さすが、澁澤・中井の後継者(イメージのみで言う)。