橋本治「蝶のゆくえ」2

 全6編の短編集。読み終えてみて感じたこと。「懐かしいなあこれ。桃尻娘の後編みたいだ」。要するに、ごくふつうのドラマに、橋本治の鋭い視点が挟み込まれているから、いつもの彼のエッセイや評論を読むのと同じ興奮を味わえるのですね。(かのシリーズで、特に醒井凉子さんが晒されていたのと同じ視点。)まあそれが真実を突いているのかどうかは例の如くわかりませんよ。わからないことは認めつつ、それでも、文章のリズムに乗っかりそのスピードを楽しめるのは事実。以下、バブルの頃、大学教授の息子が広告代理店に就職した際の記述。

 河野の家は、人の持つ「知性への憧れ」という欲望に応えて、その優越を成り立たせていた。資産家ではないが、生活に不自由なく、それゆえにこそ、「知性」という人の虚栄心を刺激しうる存在になっていた。その河野家から、「時代の輝き」というものが失せつつあった。新しく社会人となった忠踏は、そのくすんだ銀器のようになった河野家のくすみを落とし、新しい輝きをもたらすような存在になっていたのだ。

 ははは。笑えるなあ。こうまで断定されると、さすがに気持ち良い。「小説」とは認められない人もいるかもしれないけれど、エンターテイメントとしては一流っす。買ってきてよかった。整理券もばっちり。というわけで、八重洲で行われる12月14日のトーク&サイン会、今から楽しみにしてまーす。