怒れる女

「この世の仕組みに適応したから偉いとでも思ってるの? それじゃああまりにも陳腐じゃない? わたしはあの頃腹を立ててた諸々のことに、いまだに怒ってるわよ。腐ってるって言うならあの頃から腐ってた。今ほど嫌いな人間は多くなかったし、将来への夢もあったけどね。あなたは何なの? 『男に生まれたかった』なんて言ってたわりには、見事におばさんになったじゃないの。世間にはよくあることだけれど、まさかあなたまで、男にペニスを突っ込まれて『ああ、気持ちいいからもうわたし、これでいいわ』って翻るタイプの女だったなんてね。わたしはずっと、人間に生物学的性差があることが不愉快で、もっと言うなら固体と固体の間に差異があることからして不愉快で、社会の制度や慣習を改善しようがどうしようが永遠に変わりようのないことに関して頭に来てて、それを不適応だとか未成熟だとか決めつける連中は殺してやりたいと思ってる。まあ、ほんとに人を殺すくらいなら自分が首を吊るけど。とにかく、日々の生活にそれなりの楽しみがあるとしても、この根本にある不愉快さは絶対忘れない。たとえあと百年生きたってね。」

松浦理英子『裏ヴァージョン』より。(強調はわたくし。)