『細雪』(下)

ふう。ようやく蒔岡姉妹の物語に幕が下りたという次第であります。噂通り、ほんと、不思議な幕引きだったなあ。三女雪子の「腹下し」でこの絢爛たる大長編は終わるのだもの。谷崎は、『細雪』を「おおむね予定通りに進ませることができた」と語っているけれど、だとしたら、当然この「腹下し」にも意味がある、と受け取るべきなのでしょうか。つーか、実際にあったことをモデルにしてる、ということなのかな?
四女妙子のファムファタールぶりは最後まで見事でした。読者への何ら種明かしなし。うん、その方がいいっすよ。対する、三女雪子の、あまりにも極端なおぼこぶり。ふふふ。いや、実のところ、こちらのほうにこそ感情移入の率は高かったのですがね。わたしも電話苦手だし。その木偶の棒さに、見合い相手から嫌われるなんてエピソード、いやほんと、他人事とは思えませんでした。(可愛い、ってんじゃないよ。あくまで「他人事とは思えなかった」ってだけ。)そもそも雪子は、あまり結婚願望――というか、男性への執着がないからね。金持ちだもん。蒔岡家。たとえ落ちぶれかけてるとはいえ。だからこそ、世間体を気にする以外に結婚する理由なんて、彼女にはなかったのだろうだし。いいんじゃない? 別に。御牧さん(公卿の息子)のこと嫌いじゃないんだろうけどさ、無理に結婚なんてしなくて。――てな呑気なセリフは、決して『細雪』世界では発動されないのでした。まあだからこそ、そのタイトな具合が心地良かったのですがね。