東京日記 卵一個ぶんのお祝い。

どうでしょう? 気付きましたか? 「某村さん」の正体は? 
まあ、この本を読むくらいの川上弘美好きのひとにはお見通しだったのかもしれないけれど、わたしはまったく気が付かなかった。だって、なんだか、この文章を読んでいると、とてつもなくダンディな像が浮かんでくるのだもの。

某村さんはいつも会社に行くようなきちんとした服を着ている。会社員だからである。
対談が終わってから、近くの焼きとり屋さんに行って、女の子の話をする。某村さんは会社員な上に、女の子にとてももてるのだ。
(略)帰りに、某村さんのワイシャツの胸についている馬の模様をじっと見ていたら、「馬、好きなの?」と聞かれる。「馬、少し、好き」と答えたら、「それは、いいね」と、某村さんは深みのある声で言った。
ああ、この答え方が、女の子にもてる秘訣なんだなあ、と、感じいる。

誰だろう、某村さんって? と、この本を読んだ当初はしんけんに悩んだものです。でも、「会社員」、「対談」、そして「女の子にもてる」という言葉で気が付くべきだったんだな。答えは――十中八九、穂村弘ですよね。「某村さん」だもの。他に……いないよなあ。
けれども、ひっかかるのは、「深みのある声」というところ。深かったっけ? 穂村弘の声。前に、2度ばかり、テレビとラジオで耳にしたことがあるけれど……声の深さには、とりわけ感興を催さなかったような……。単に、「ああ、これがほんものの穂村弘か」という驚きに目を眩まされていただけで。目と言うか耳と言うか。そうたびたび、耳にできる物件ではないので、かんたんに確認し切れないのが惜しまれる所存であります。(もしかして、ぜんぜん違ってたりしてね。他に、きちんと「女の子にもてる」「深みのある声」の某村さんが存在してたりして。なんか、上の文章を読んでいると、勝手に「体格のいい」という言葉がプラスされてしまうんだよなあ。)
つーか、川上弘美、照れずにこういうのは実名を出してもかまわないような気がします。交友も作家の重要な仕事のうち……ってなおごりを見せないのが、魅力と言えば魅力か。