いたわしい

 共通の敵を前に結束する快楽はやっぱり未だ健在だと思う。そういう快楽を当てにして、話題の「キンキーブーツ」は作られているのだと踏んでいた。だが、実のところ、そうした快楽の元となる理不尽な怒りはほとんど燃え上げられることはなかった。つまりは、ボルテージはさほど上がらなかった。いちおう、「なんだよこのファゴットはよ」という役割の人間はいたものの、そこにこの映画のポイントはなかった。では、どこにこの映画のポイントがあったのかというと、ローラが、まるでイギリスの原ひさ子と呼んでも差し支えない上品と善良を絵で描いたような人物から「あなた、ほんとうは男なんでしょ」と言われるところにあったのではないかと思う。彼女に、悪意はない(筈だ)。悪意はないけれども、言われるローラは、堪らなく哀しい。そういう哀しみは、言った側と共有されることは決してない。リアルな差別って、結局こういう感じだよねという(不快感を催させない)提示。なにげにも、気をつけないとな、おれもと、きゅっとふんどしを締め直した次第だ。