雪子とアルコール

細雪」のヒロイン、蒔岡家の三女、雪子のモデルは「アルコール依存症」だったとか(→)。わりに意外な事実。うーん。雪子というより、その姉の幸子の方がどちらかといえば「アルコール依存症」に陥りやすいようなタイプであったような気がしないでもないけれど。

 何も知らない雪子が真っ先に、妙子もやがて寝入ってしまったらしいのに、幸子はひとりまんじりとせず、時々目の中に溜まって来る涙を毛布の端でこすりこすり一晩じゅう考え続けていた。鞄の中にはアダリンもあるし、ブランデーもあるのだけれども、今夜のように興奮していては利き目がないことが分かっているので、そんなものを飲んで見ようともしなかった。……

 新潮(下)P.136より。そもそもぼくは、雪子が自ら酒に手を出すシーンというのがこの小説にあったのかどうかを、どうしても思い出すことが出来ない。ありましたっけ?

 雪子が風呂から上がったのは十二時近くであったが、それからひとしきり、貞之助と三人の姉妹とは応接間の暖炉にぱちぱちはねる薪の音を聞きながら、久しぶりに顔を揃えてチーズと白葡萄酒の小卓を囲んだ。(上:P.219)

 とか、

 貞之助夫婦も、雪子の関西に於ける楽しみの一つがこの鮨にあることを察していて、大概彼女の滞在中に一二度はここへ誘うのであるが、貞之助はそんな時に、幸子と雪子の席の間に自分の席を占めるようにして、時々、目立たぬように、妻と二人の義妹たちへそっと杯を回してやるのであった。(中:P.256)

 とかいうシーンなら思い出すことが出来るのだけれど。どちらも、和気靄々とした、楽しげなシーンなのに。雪子さん、陰でこっそり、憂さ晴らしをかねてひとりで飲んでたのかしら? だとしたら……けっこう深いな。