『よく嚙んで食べる』読了

 初期のドラえもんがあまりに美味そうに餅を食べるのを見て勝手に想像力を逞しくし実際の餅を口にした途端に味わった幻滅ももしかすると作用しているのかもしれないけれど、正直、今まで周囲で立ち上がっていた「お餅が美味しい」という味覚感覚の表明にいまいち共感できないものを感じていたのです。いや、けして不味くはないのだけれど。「美味しいとまで言い切れるかな?」という疑問符が頭上に浮かんでいたくらい。つまり、それって、こちらの咀嚼に対する認識の中にいささかの軽視が含まれていたからかもしれない――軽視とまでは行かずとも、少なくとも、重視の方に針が振れているとは到底言い得ない状態だったからかもしれない。
 というようなことを、続けて咀嚼に関する本を読んだりすると思ったりもするわけで。なるほどなあ。味・栄養だけでなく、テクスチャー(食感)にももう少し食文化の一環として注意を払った方がいいですよ、という提言に、蒙が啓かれた、と感じてしまうくらいだから、一体今まで自分は何をどのように学んできていたのやら(何をどのように食してきていたのやら)……。アルファ波・ベータ波云々に関する記載に生理的嫌感を催すひともおられましょうが、全体に、著者の善意が満ち溢れていて――副題が「忘れられた究極の健康法」だし――読み終えたあと、よし、じゃあ次の食事からよく嚙むことを自分に課してみようか、と1回でも思わないひとがいたとしたら、それはかなりに稀なケースとなり得るのではないでしょうか。
 というわけで、せっかくなので試す予定。次の正月で。餅が美味しく感じられるようになるか否か。真面目に。(カズノコでも。)NHK出版の生活者新書。2005年刊。齋藤滋著。