『すいかの匂い』読了

 またこれは……と何に対して絶句しているのかというと、ここに出てくる子供たち(ローティーン前後)の描写における説得力に対してで、解説で川上弘美氏が指摘しているように、それこそ手に取るひと各々によってその感じ取る濃淡もまた異なってくるのだろうけれど、しかし……例えば、友達に嘘をついてしまう感覚とか、わー、といって逃げ出したくなるくらいに、我が身に迫ってくるものがありますね。いや、でももちろん逃げ出したりはしない(本を読み止めたりはしない)んですけれど。
 糾弾、してないっすよね。ここでの子供たちの倫理観の薄さとか、残酷さ(←ってことばもまた安易なのですが)を。受動的な判断停止、というよりも、むしろ能動的な判断保留。というか、そもそもここに判断をする余地があるのか否かという譲歩(は行き過ぎで、均衡)。そこが——すいません、ちょっとこの作品集、好きとか嫌いとか超えて——迫って来る。いやいや……わが戸棚の未整理な部分の「未整理である」というその事実をこそ眼前に突きつけられたようなというか。きれいごとじゃない、かといって偽悪的でもない、という勁さこそが、結局はここでの子供たちの視線と繋がっているというか。江國香織著。2000年の新潮文庫