霊降ろし

 まったくもって、田山朔美というひとに関する情報は持っていなかったのだけれど、春日武彦が読売の書評で褒めていた(→)のを機に手に取ってみたのです。特に、春日氏が、評の最後で「読んでよかったなあと素直に思える小説」と記していたのに、びびびと反応した次第。

霊降ろし

霊降ろし

 いち読後、うん、なるほどなあ、と、上の「素直に思える」という表現に同意。正直、ちょっと、母親の描写がステロタイプなんじゃないかなあと感じられないでもなかったのだけれど、でも、これは、語り手によるバイアスが掛からざるを得ない状況なのだから、ぜんぜん小さい。むしろ、はるかに、「読んでよかったなあ」という方が大きい。というか、「田山朔美という作家に今回出会えてよかったなあ」というのが、さらに正直なところっすね。深化しそうな予感を多大に抱かせてくれる。今後、どのような作品を世に送り出してくれるのかが楽しみっす。
 ところで、夏の暑さというものを、音やビジュアルに頼らずに追体験するのって、それこそ独特の喜びがありますね。いや、けっして作中で主人公は、夏の暑さをまったきよきものとしては捉えていないのだけれど。単に、自分の実際に記憶しているそれと、調和させやすいからかもしれない。そして、ぼくは、この小説を、そうした「実際に」あった夏の暑さのひとつとして、のちに思い返すこととなるのかもしれません。