鰍問題

 未読状態で(→)。

 漢字を発明した古代の中国人は、海の魚より淡水魚をよく食べた。そのため、海の魚を表す漢字が、比較的少ない。中国から漢字が伝来した当初から、日本人は頭を悩ませてきた。「俺たちがふだん食べてるイワシやタラに相当する漢字がない」。そこで、日本人は必要に応じて、新たな魚偏漢字をいっぱい作ったのである。

 なるほどね。ということで、昨今食卓にひんばんに顔を出すようになった「サンマ」という海の魚にぴったりと相応する魚偏の漢字が(まだ)ないんだな、ということにも、深く得心するというものなのですが。
 いやもちろん「秋刀魚」という漢字があるのは知ってますよ。知ってますけど、これはちょっと邪道というか……やはり、このさい、魚偏の漢字1文字で「サンマ」という語をきっちりとスマートにいい表したい気分なのです。
 例えば、「魚偏に秋」とかね。秋の魚で、まさに「サンマ」。適材適所。すばらしい。でも、そこには既に「カジカ(鰍)」って先客が入ってるし。(ちなみに、ぼくはまだこの人生の中で1回もカジカを食したことがないのです。食べられるんですよね?)いっそのこと、「鰍」って漢字で「サンマ」とも読ませるようにすればいい、と思わないでもないものの、保守が大勢を占めるこの国で、上記意見が2/3以上の票を得る確率はゼロにも等しいだろうしなあ……。
「秋刀魚」つながりで、「魚偏に刀」というのも一見よさそうに映るのだけれど、これ、じっさいにペンで書いてみたら、バランスがひじょうに取りにくいのです。加えて字面が、「刀」という字のイメージが強いせいか、「サンマ」という魚の雰囲気を醸し出しているとは到底いいがたい。無機質っぽい。←個人的感覚ですが。
 どうしたものだか。——まあ、サンマよりも、「鯨(クジラ)」という漢字の魚偏を先に何とかしろという至極まっとうな教育的に正しい意見があるのは重々承知しているのだけれど、個人的には、このサンマ問題(国民のコンセンサスとの著しいギャップ)の方にどうしても注目せざるを得ないのです。とかいって、近い将来にこの問題が、万人の納得のいく形で解決する事態と相成ったら、それはそれで微妙に笑っちゃうような気がしないでもないんですけど。