ノーサック

 いるんだなあ。どれだけ新聞を読んでも指がインクで汚れないひとって。まっさらな状態。真剣に羨ましい。自分なんて、新聞を読んだあとに例えば新潮文庫にでも触れようものなら、裏表紙にびっしりと押捺状態。思い切り惨事。とてもとても、泣くにも泣けない。消しゴムで擦っても、そういう汚れって完璧には落とせないしね。
 新聞にアイロンを掛ければ、こうした惨事も避ける事が可能——つまり、新聞のインクが乾燥して指につくようにならない——という話は、どれだけ月日が経っても色あせる事のない、わが長期記憶にしっかりと組み込まれているエピソードです。ほんとうかどうかはわからないのだけれど。今ちらと調べてみたら、和○アキ子が毎朝実践してるという噂があるって? ぼくが記憶しているのは、某政治家が秘書に毎朝やらせてるというやつで。実際の話、新聞が燃え上がったりはしないのだろうか? というような恐れと利便性への魅力とが、絶妙にバランスを取り合っている、ある意味抜きん出ているエピソードであるようにも思えます。(だからこそ、記憶の貯蔵庫からいつまで経っても抜け落ちない。)
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 という具合なもんだから、指サックのありがたさというのも、いまいち飲み込めなかったりもする。めくれるから。いくらでも。紙を。そういう道具を使わずとも。「へえ、いいね」と指サック組のひとのひとりに羨ましがられたのだけれども、別に、あまりうれしくもありませんでしたね。むしろ、1回くらいそうした淡白な指での生活を送ってみたい気がした。(年を重ねれば、自然と枯れていくのだろうか?)