在仏中国人作家の2冊

碁を打つ女
 フランスで活躍している中国人作家の本を2冊読みました。まずは1972年生まれの女性、シャン・サの「碁を打つ女」。いやー、実に文章がうまいですね。シンプルで硬質。うつくしいです。それと、日中戦争の頃の悲恋を描いているだけれど、日本兵が現地の人を殺す際の描写が、なんというか、絶妙。非難するでもなく、かといって単なる事実列挙でもない。きちんと日本兵の感情まで描いていて、そこに多大の不快感を催させないというのは、うーん、すごい力量の持ち主なのかもしれない。ただ、難点を一つ。僕にはどうしても少女側の恋情が最後まで理解できませんでした。どこに惹かれたのだろう?碁の対戦相手の青年に。別に相手は(身近な人であれば)誰でも良かったのかな?いや、もう題材が「悲恋」だから、全編酔いっぱなしではあったのだけれど。ちなみにこの本、フランスで「高校生が選ぶゴンクール賞」なる賞を取ったそうです。うん。なんかこれ解りますね。本当に高校生が審査員なのかは知らないけど、若者に支持されそうな恋愛描写で満ち満ちていたし。
バルザックと小さな中国のお針子
 そして(日をおいて)ダイ・シージエの「バルザック小さな中国のお針子」に手を出す。文革の頃の中国では、インテリ層の子供を農家に追いやるのが流行りだったのですか。はじめて知りました。案外養老先生の「都会人、田舎への参勤交代」論はこんなところの影響があったり。まあそれはともかく。そんな時代、ふたりの青年が、追放先の農村でひとりの無垢な美少女に出会い、「よぉし、俺たちで教育してやろう」と目論むのですが・・・。著者は1954年生まれの男性。相当、自身の体験も反映されているらしいです。なるほど。小説を禁止されるってかなりの飢餓感があるものなんだ。わかるなあ、それ。とそれは十分分かるのだけど(ただし、ちらりと「ドリーマーズ」の映画好き青年たちを思い出したり)・・・うーん、正直最後まで乗ることができず。この少女の人物造形が、あまりに作者に都合の良いように見えて。まあ、こういう本を必要としている人たちがいるのはよく解るのだけれど。フランスでは40万部を超えるベストセラー。だそうです。女性にも受けてたのかな。