虚実の膜を突く地震

 森下裕美の連載マンガが、たいへんなことになっている。まあたいへん、といっても、単にキャラクター設定に変化が生じたというだけなのだが。うーん。名前は忘れたなあ。あの、大きな犬と一緒にいる、人の良さげなおじさん。その人の良さ――つーか、いつでもどこでも眠ってしまうボケ具合をたびたびネタにされていたのに、今回の新潟県中越地震を機に、彼は新しいキャラクターとして生まれ変わる。現地で、ちゃきちゃきと、あの呆けた表情はどこへやら、ボランティアとして活躍するのだ。
 えーと、これって、けっこう作者にはものすごい賭けだったような気がするのです。なぜって、自分の得意のカードを、自ら使えないようにしているから。もう、あのおじさんの「いつでもどこでも寝る」というボケは見られない……のか。けっこう、半年ぐらい経てば、また同じキャラクターとしてモアちゃんユウヤくんアサカちゃんと絡み出すのかもしれませんが。それはわからない。わからないと言いつつ、現実に起きた事件を機に、虚構内の人物がかように変化する例をぼくは知らなかったので、それで、ちょっと興奮している節もあるのです。180度の転回、といっても差し支えない変化だからなあ。(あとで調べてみたら、‘大家さんのダンナ’と判明。毎日新聞夕刊連載「ウチの場合は」においての話です。)