通勤電車小説

 吉田修一「春、バーニーズで」*1山田詠美が言うところの「アーバン」な短編集です。地味目な作品だけど、けっこう好きだな。週刊文春のインタビューで「最後の息子」の続編といったセリフをちらりと目にしたことがあるけれど、そんなことは気にせず、独立した本として楽しめます。ただ――こういう視点は差別的ということになるのかな――相変わらず、多いなあ、どもり文が。「そ、そうか」とか。「う、嘘でしょ」とか。まあ、実際に、動揺している人はこのようにしゃべるのだろう。しゃべるのだろうけれど、もう少し、他の表現方法も探ってくれたら嬉しいなあ、なんて図々しく思う。いや、ほんと目につくのですよ。吉田くんの小説では何故か。
 個人的には、「パパが電車を降りるころ」という作品が好み。通勤電車小説です。京王線に揺られながら、主人公がぽつぽつと思うことを中心に小説は構成されています。昔、聖蹟桜ヶ丘に住んでいた人間としては、つい思い入れも深くなるというもの。