恐怖と軽蔑

 カッコ内は、新潮文庫版「青の時代」のページ数だよ。

 過度の軽蔑はほとんど恐怖とかわりがない。(112)

 これは、川崎誠が会社を立ち上げてすぐの頃の文章。客に向かって、こう、恐怖を感じてるわけだね。かなり既視感のある箴言だと思うけれど、どうだろう? どっかで見たことないかな? この恐怖は、あくまで他人に感じるそれであって、けっして自然災害とかそういう巨大なものには敷衍できないけれど。

 侮辱というものは、僕には何かしら居心地のよい平和だと彼は考えた。(167)

 これは、会社が軌道に乗ってから、再従兄の怒りのあとに川崎誠が感じた際の文章。過度、ではないから、侮蔑も心地よいってことかな? これもまた、現代社会では既にどこかでお目にかかってそうな文章だよね。

 僕に云わせれば、軽蔑する権利を得るための戦いが、征服です。ある価値を征服したいと思う僕の目的は、ただただその価値を軽蔑したいためにすぎません。(176)

 これは、最終章近く、意中のひと野中さんとふたりきりになった際に川崎誠が放つセリフ。征服……かあ。つまりは、征服って、けっきょく恐怖の産物に過ぎないんだよね。(って、これこそ既にしてどこかで見たことのあるセリフ?)